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沖縄をテーマに居場所に悩む人の背中を押す深沢潮氏の意欲作

2021年9月19日

作家・深沢潮(ふかざわ・うしお)氏が沖縄をテーマに描いた最新小説「翡翠色の海へうたう」(角川書店)が刊行された。

「翡翠色の海へうたう」は、現在と沖縄戦当時、それぞれの時代に生きた2人の女性を主人公に、物語は並行的に進行していく。

主人公の一人は、現在を生きる河合葉奈。物語は、彼女が現在の南城市にある自然洞窟(ガマ)「糸数アブチラガマ」を“取材”するところから始まる。葉奈は、応援しているK-POPアイドルが慰安婦女性など性被害に遭った人たちを支援するブランドの服を着ていたことがきっかけで“慰安婦”に関心を持つ。“取材”と書いたのは、彼女が趣味で小説を書いており、長編新人賞の応募作のテーマとして、沖縄戦時に朝鮮半島から連れて来られた慰安婦を取り上げようと思うようになったため。彼女は有給休暇を取り、一人沖縄を訪れることとなった。

もう一人の主人公は、沖縄戦時に朝鮮半島から日本軍の慰安婦として連れて来られた女性。本名で呼ばれることはなく、“コハル”という仮の名前を付けられ、毎日、夕方から夜にかけて日本兵の相手をさせられる。次から次に繰り返されるその行為のさまを、淡々と同じ表現を繰り返す手法が取られ、描写がリアルなことも手伝って読み手の心に強烈に響いて来る。

深沢氏が「沖縄戦」、そして、「慰安婦」という非常にセンシティブなテーマに挑むにあたり、この2人の女性の“生”や“人生”にスポットを当てることで、歴史的なことだけでなく、女性が厳しい時代に生きるということをしっかりと浮き彫りにしていく。

葉奈は派遣社員という非正規雇用の立場で企業に勤めるOL、コハルは逃げることも拒むこともできずただただ毎日を過ごす慰安婦。葉奈は「家族の中で私は、いてもいなくても変わらない存在」といい、コハルは「生きていたくないのに、死ぬ覚悟もない」「コハルと呼ばれるあいだは、自分自身を消して、兵隊の人形としてふるまおう」と、2人には“生”に対する諦観が染み付いてしまっている。

戦争の暗部といってもいいシーンと、その“生に対する諦観”から、読み進めていくと、ふと、深沢氏のつづる物語に“色”を感じていないことに気づく。しかし、そんな中でも、コハルが沖縄に連れて来られた時にきれいな海を見て、本書のタイトルにもある“翡翠色”を感じることで、読み手の頭の中の景色が一気に色づいていく。そのシーンが、辛い状況の中でもコハルがホッとひと息を付けた瞬間でもあり、読み手にインパクトを残すことに成功している。

本書の後半でコハルは「わたしは、女に生まれたことが悔しくてたまらない」と心情を吐露する。この“悔しい”という感情は、“諦めた人”からは生まれて来ない感情だ。その意味でも、コハルがこういう感情を持てるまでに変化できたことに読み手は少しでもホッとし、かつ、そのコハルの生き方や言葉が現代の葉奈にも届き、彼女の決断に対して背中を押すことにつながる。

本書は、沖縄戦の歴史を学べるだけでなく、女性の生き方を力のある筆致で描き切ることで、現代の読み手の女性の背中も押してくれる物語となりそうだ。

「翡翠色の海へうたう」
発売中 1,760円(税込) 角川書店